巨匠の父と次世代Qawwali楽団 – Ustad Atta Fareed Bhag / Kaley Khan Bhag

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今回来日したカゥワーリー楽団の公演、なんだかんだで尻上がりに満喫した。今日午後のフライトで帰路に向かったようなので、無事帰国して、現地でもまた頑張って戴きたいですね。

この記事は、来日したカゥワーリーたちに関しての記事…というよりは、主に、そこから派生して興味を示した巨匠な父に着目した記事です。

色々別件で気持ちに余裕がなかったこともあり、来日している間じゅうにじっくり調べることが出来なかった。
昨日、帰路に向かう直前の公演を観てだいぶ好印象だったが故に、ようやく「どれどれ」と調べ始めているところだ。

なのでこの記事は、纏めには至っていない、下調べアーカイブといったレベルに留まる。

カゥワーリー楽団 Kaley Khan Bhag 来日

この夏、数年ぶりに開催されたPakistan Japan Friendship Festival。
以前から8月14日の独立記念日を絡めて、盛夏に開催されてヘトヘトになるのだが、今年は時期をズラして…と聞いていたのに結局独立記念日の10日ほど前にズレただけで、年々ひどくなる猛暑のなか行われた。

今年は当初、パキスタン現地からはアーティストは呼ばないと耳にしていたのだが、ひと月ほど前に、これまで呼んでいたのとは異なるカゥワーリー楽団が来ることになった、と聞いた。

今まで何度か来日していたカゥワーリー楽団の楽師たちとは、来日をきっかけに親しくなり、現地でも自分たちのパフォーマンスに連れて行ってくれたりと、色々よくしてもらっていたこともあり、彼らが今回、来日を果たせず、非常に悲しんでいるのも知っているが故に、心情的に若干複雑なものも抱えつつも、今回来日の楽団の演奏を見に向かう。

フェスティバル終了後も2週間弱の滞在期間に、彼らは在日パキスタン大使館や北関東、ついでに何故か韓国遠征までこなしたようだ。
普段なら相当追っかけめいた行動に出るものの、今回は新宿での公演と、同じく新宿でのセミプライベート?な公演のみ観に行った。

上述のとおり、若干複雑な思いがあったこともあり、(彼ら自身のせいじゃないのに)ゼロよりは若干マイナススタートの色眼鏡付きで見てしまってはいたものの、在日パキスタン人たちの反応も含めて、パフォーマンスを回数眺めていくうちに、悪い面だけでなく良い面も見えてきて、まぁ、最終、プラスマイナス、プラスな印象で終わった。

肩書につきがちなレジェンドの名前

「今度来る楽団はUstad Nusrat Fateh Ali Khanの甥っ子だよ」と、雑にスゴい触れ込みを聞かされてはいたが、正直、大巨匠Nusratとの繋がりをアピールポイントにする楽団は多く、はじめてでもないので、話半分に聞いていた。なんなら前回招聘楽団も遠縁オブ遠縁だった記憶。

カゥワーリー楽団は今でもほぼ家業の世襲制がほとんどで、なおかつ、カゥワールたちに限らずパキスタンは大家族。しかも楽団は大抵10名以上の大所帯が故に、1グループのメンバーの遠縁まで含めたらそりゃあ結構な数のカゥワール同士が遠縁にもあたるだろう。

加えて、Nusrat自身がデーレーダール(楽団長)やUstad(師匠)として優れていたとしても、そこから既に倍々で分派した楽団は、師匠も引率役もみな別人なわけで、ポリシーも采配も何も、全てが異なっていく。全員にNusratと同一のDNAが同等に分配される訳ではない。

どの楽団でも、どれだけ長い間所属していても才能に恵まれない、もしくは全く不真面目な楽団員をも多く抱えているわけで、なまじ血縁中心で固めているが故に、血縁内ヒエラルキーにより、能力度外視で優遇される人もいれば、不遇なポジションに甘んじ続ける人もいる。

地頭がボンクラなので、なかなか有益な知識は増えないながらに、ダテに長い間いくつかの楽団を追いかけ続けてるわけではないので、そういうのだけは伺い知れるようにはなってきた。

そんなのもあって、「Nusratの何某」なるアピールポイントは脳内消去してしまいがちだったのである。

良き友人かつ良き弟子

八潮での公演に足を運ばれた、パキスタンの芸事に詳しい村山先生による聞き取りがなかったら、今回の来日楽団の詳細な情報は、上述の、華々しそうだけど眉唾に思ってしまう肩書以外にはほぼないまま終わっていたようだが、先生のお陰で色々と背景情報が本人たちより引き出された。

彼らの師であり父はUstad Atta Fareed Bhagと言い、Nusratの楽団の第2ハルモニウム奏者だったと言う。父がNusratの直の兄弟というわけではなさそうなので、遠縁ではあっても日本で言う「甥」ではなさそう。(ホラヤッパリ

Nusrat楽団の第2ハルモニウム奏者だった、と、ここまで聞いてもまだ、穿った見方を続けてた。というのは、一時的にNusratの伴奏メンバーになってただけでも充分に大いなるキャリアとして肩書にし得るからだ。そこは否定するものではない。あれだけ世界的に有名になった楽団ならピンチヒッターとして選ばれただけでも相応の実力であることの証明にはなるであろうから。とはいえ、正規メンバーであるか否かには雲泥の違いがあるであろう。

でも、そういえば今まで、せいぜい第1ハルモニウム(主唱がハルモニウム演奏をしない構成の場合)くらいまでしか着目したことがないな、というのと、どんな形であれ、Nusratの楽団にいたことがあるなら、第1ハルモニウムはRahatの父でありNusratの直の兄弟のFarrukh Fateh Ali Khanなので、見分けもつきやすいから観てみよう、とググりはじめてみた。

案の上、動画は有象無象ある。
それよりも、動画以外に目に入ってくるAtta氏を形容している文言が、「Nusratの最良の友人かつ最良の弟子」「ハルモニウムだけでなく、名唱者としても有名な」「Nusrat楽団の最後の生けるレジェンド」と、みな、非常に高評価なのに驚いた。

どうやら四半世紀以上Nusrat楽団の「主要メンバー」の1人で、ハルモニウムに限らず、唱者としてもかなり評価は高いようだった。なんだ、素晴らしい。これは完全なお墨付きではないか。動画掘らなければ…。

Nusrat の楽団時代

1983年

Ye Jo Halka Halka Saroor Hai – Ustad Nusrat Fateh Ali Khan – OSA Official HD Video – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=IROccWiBT-A

第1ハルモニウムのFarrukhさんの頭もフサフサしてるくらいに、Nusratはじめ、みなさんだいぶ若い時期。既に第2ハルモニウムとして演奏してる。
なるほど。むしろ歌い手としてめっちゃ光ってる。

1988年

Phiroon Dhoondta Maikadah Tauba Tauba – Ustad Nusrat Fateh Ali Khan – OSA Official HD Video – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_4L6619YdPk

5年経っただけで色々変化が大きいな。復唱者がまだまだ若きRahatに変わってる。わりと地味で「曲」としては変化に乏しく、カゥワーリーを聴きつけない人にはキツそうな演奏だけど、後半10分ちょいは前列メンバーそれぞれのパフォーマンスやそれ以外のあらゆる動き、目線含め、非常に釘付けになっちゃう動画。

息子へ引き継いで行く楽団

来日した現デーレーダール(楽団長)、三男で主唱のKalay Khan Bhag氏いわく、もうデーレーダールを努めてもう20年近くもなるということで、逆算すると彼が二十歳前後には父名義ではなく、息子世代の楽団として活動を始めているようだが、巨匠と言われる父は今もご存命で、息子の楽団で共に演奏を続けているようだ。
高齢が故か、共に来日はしなかったようでやや残念ではある。

撮影時期不明。

Thumri Raag Darbari | Jhanak Jhanakva Bole Bichuva | Atta Fareed Bagh | Living Legend of NFAK Group
https://www.youtube.com/watch?v=jA4XBEAPW04

時期が定かじゃないのでどんな名義での演奏なのかもわからないが、デーレーダールにまだ引導を渡しきってはいない様子が窺える。
現デーレーダールおよび反対側にいる副唱者をアイコンタクトのみでコントロールしたりダメ出し代わりかの如く歌に割って入ったりしてるのがよくわかる。

2019年

Pak Nabi Da Farman Ay Ali | Kalay Khan Bhag Qawwal | Mola Ali Manqabat | Qawwali Lovers
https://www.youtube.com/watch?v=xTrTp-6SiSY

Faisalabadでのウルス(スーフィーの祭事)
上の動画と比較すると、時折後ろのメンバーに指示を飛ばしたりもしつつ、でももう、事実上すっかり息子たちに任せきっている様子で、息子も全く迷いなく自信にあふれるパフォーマンスをし、父ももう対等のパートナーとして好パフォーマンスを重ねる。素晴らしい。一番よい時期だろうな。

途中、一旦謎の邪魔?が入って中断しかかって、会場脇の聴衆か何かに一言何か言う、というかなり珍しい場面もあり。カゥワールが演奏以外の物申しらしきことをしてるのははじめてみた。これもこの人が故に出来ることだったりするかも。

2023年

بہت ہی خوبصورت کلام Kalay Khan Bhag and qawwali Gurop
https://www.youtube.com/watch?v=5fHvqDY4NeU

詳細不明のウルス
今年、つい数ヶ月前もまだまだ現役で息子の楽団で演奏してるんですねぇ。息子のサレガマを脇で見つめる巨匠の父の眼差しがもう全然違う。

まとまらないまとめ

敢えて極力婚礼向けのイベントカゥワーリーではなく、宗教儀礼のカゥワーリーな動画を拾ってみたけど、がっつり長丁場パワフルにやってますね。TPOでかなり演奏にメリハリ切り替えてるのかな。

これもまたご縁なので、彼らも今後長々見守る楽団リストに入れよう。

上述のとおりで、Nusratの系譜にどれだけ近くても、方向性を決めていくのは個々に分かれた楽団の先導役、楽団長である。楽団長のマインド次第で如何ようにも変わる。

彼らの楽団では、既に正式な世代交代は為されつつも、幸いまだ矍鑠とした巨匠の父が今でも帯同してる。長年コアメンバーであったが故に、Nusrat楽団のエッセンスは多分に残されているのかもしれない。今はまだ。しかしそれは、彼らの父が、である。彼らの父の、目の黒いうちは、であろう。

私が主に追っている楽団は大抵、過去の巨匠の次世代〜次次世代、もしくは中堅どころとその次世代、という比較的若い世代が多いので、よくよく考えてみたら、巨匠レベルの前世代がまだ実在している楽団自体、はじめてかもしれない。
巨匠のお父さんがお元気なうちに一緒にやってる姿が生で見れたらよいな。
そして、今後どんな風に変化をしていくのかも、しっかり見ていきたい。

(最近手薄だけど)コンゴの音楽はわりと早くからメインのシンガー以外のシャントゥールやアタラクにも注目しはじめてたけど、カゥワーリー楽団に関してはあんまりそっちまで視野を広げてきてなかった気がする。

チラっと見た動画で脇の人が目を引くことは何度もあったけど、固定メンバーかどうかもわからなかったり、メンバーがまだ固まってなかったり、徹底して名もなき下っ端だったりも多そうなので、コンゴルンバの大所帯バンドよりハードル高そうな気もするけど。それでも今後はちょっと広く見てくようにしよう。